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事業承継、その方法としてのM&Aのアイキャッチ

事業承継、その方法としてのM&A

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2017年02月20日 公開
事業承継、その方法としてのM&Aのアイキャッチ

【経営者の高齢化、押し寄せる事業承継】

厚労省によると、65才以上の人口は現在3000万人を超え、団塊の世代約800万人は今から僅か8年後の2025年ころ75才以上となります。
企業経営者の高齢化も進み、2015年の社長の平均年齢は60・8歳。社長数の年齢内訳も60歳代が34・5%、70 歳代が23・3%に達しています(東京商工リサーチ調べ)。

「何年後に事業承継を実行したいですか」と企業経営者に尋ねると、60歳代経営者では、5 年以内が44・2%、5年超10年以内が40・3%と回答し、70歳代経営者では、5年以内が69・1%(内3年以内が37・6%)との回答です(中小企業白書2014年)。

そのような中、日本の企業数は2014年7月時点で382万社もあり、その99・7%(380・9万社)が中小企業です(中小企業庁調べ)。

したがって、極めて多数の企業、特に事業の継続性や後継者の確保に不安定感を否めない中小企業において、経営者の高齢化・相続を原因とする押し寄せるような事業承継への対応が、社会的な課題になっていることが分かります。それは経営者家族にとって重要な課題であるのみならず、社会全体の雇用、培われた技術の確保等に関わる社会的な課題として対応が求められているものなのです。

そこで以下では、中小企業の事業承継、中でもM&Aを利用した事業承継を中心にご説明します。

【事業承継の仕方は、承継者に応じ大きく分けて3種ある】

それは、
① 家族・親族に承継させる
② 役員・従業員に承継させる
③ M&Aによって親族でも役員・従業員でもない第三者に承継させる
の3種です。

① 家族・親族に承継させる

これは、経営者の子供等、相続人である家族・親族の誰かを後継者とし、その後継者に会社の株式をできるだけ集中させて支配権を持たせ、事業を承継させるものです。

この方法には、後継者としての修業を長期間積ませられる。取引先も引き継ぎをスムースに受け入れられる。承継後も株主と経営者が同じなので経営判断が迅速にできる。相続ということで従業員にも納得感がある、などのメリットがあります。

他方、事業継続性が必ずしも安定しない中小企業において、狭い人的範囲から本当に適切な後継者を見出すことができるかの問題があります。後継者を絞ることが相続争いに発展することもあり得ます。後継者に株式等を集中させる遺言を残したとしても、他の相続人の「遺留分」という権利を排除することはできないのです。

※ 中小企業経営承継円滑化法等

この点、平成20年に中小企業経営承継円滑化法が制定され、中小企業経営者の相続で遺留分の主張を制限する特例が認められています。しかし、経営者生前に、将来相続人となる者全員の合意が必要であるなどのため、法律制定以来現在まで殆ど利用されていません。

また租税特別措置法で、非上場株式を贈与する場合に、贈与者が亡くなるまで贈与税の納付が猶予されたり、また、相続税納税が猶予されたり後継者が亡くなったら免除される特例も認められています。しかし、担保を提供することが要件だったり、申請手続が複雑なことなどからあまり多く利用されていません。

② 役員・従業員に承継させる

取締役や従業員に承継させるのであれば、承継者は既に事業内容に詳しく経験も積んでいて取引先とも人的関係があるなど、スムースな事業承継が可能です。

しかし、それまで保証人でなかった取締役や従業員が金融機関から経営者として保証人になるよう求められる場合がありますから、その決断ができるかという問題があります。
のみならず、会社の支配=株式の過半数が経営者の相続人に相続された場合、会社のオーナーと経営者がバラバラになりますから、迅速な経営判断ができなかったり、相続人と軋轢が生じ経営者が交代させられるなどのリスクがあります。一般に、役員や従業員には株式を買い取るための十分な資金がないので、この所有(オーナー)と経営の分離の問題が生じてしまうのです。

そこで、取締役や従業員が金融機関と交渉し、株式買い取りが実現できた場合は会社の資産に担保権を設定すると約束し、また今後の返済が可能であることを会社の利益計画を前提に説明するなどして、取締役や従業員自身や、彼らが設立した会社が、金融機関から融資を受けて株式を買い取る手法が採られることがあります(MBA又はEBA)。

③ M&Aによって親族でも役員・従業員でもない第三者に承継させる

M&A(Mergers and Aquisitions)とは、直訳すると合併と買収のことです。
広く、ある会社が、他の会社の株式を買い取ったり、合併したり、事業譲渡を受けたり、会社分割で事業を譲り受けたりする等によって他の会社の事業を取得することを意味します。

事業承継でM&Aを利用するメリットデメリット

M&Aを利用するメリットとしては、親族や従業員という狭い範囲で承継者を探すのと異なり、経営の実績・能力・意欲があり資金力のある第三者たる企業を買い手として探すことになりますから、成功した場合は、事業の継続性が強く期待できます。

さらに、将来性のある元気な企業のオーナーの場合は、オーナー側は、いわば創業者(側)利益として相当な対価を取得できる可能性があるうえ、経営者が元気な内にM&Aが実行されるので、会社の支配権をめぐる相続争いや従業員間の軋轢も生じません。相続人には、事業の対価を遺産として残すなどすればよいのです。

また、たとえ現在営業成績が悪く営業利益が出ていないような会社で現状では親族や従業員に承継者が見つからない場合でも、事業に技術、取引先、ノウハウ、名声などによる何らか独自の強みがあれば、これを評価し生かしていくことを期待して買収に応じてくれる企業が現れることがあります。雇用の確保も可能になり、事業の対価でオーナーの保証債務をなくすことも期待できます。
また、いずれの場合も、買収側との合意によっては、経営者やその一族がM&A後も経営者として働き続けることも可能です。

M&Aによる事業承継のデメリット(マイナス)は、まずはオーナーが自分の事業を手放す寂しさを克服しなければならないことです。
それを決断して前に進むとしても、適切な買い手企業が現れるか分かりません。

そこで買い手を探すため、また売り物としての会社事業・資産の適正評価をしたり、税金に関する計画を立てたり(タックス プランニング)、買い手との種々の契約・交渉のために、M&Aアドバイザー業務を行う会社、弁護士、公認会計士、税理士等(以下これらを「M&Aアドバイザー」といいます)を利用することになり、その費用が相応にかかります。場合によっては買い手が現れず費用倒れになるリスクがあります。

M&Aによる事業承継を考えた場合は、買い手を探す決断をする前のM&Aアドバイザーへの相談段階から、手続の段階に応じた費用見通しも確認しておく必要があります。

M&Aによる事業承継の流れ

(ⅰ)アドバイザーとの相談や契約

M&Aを考えた場合、まず方向性や考え方についてアドバイスを得るため、M&Aアドバイザーに相談することになります。
そのうえで買い手を探していくとなったら、まずM&Aアドバイザーと守秘義務契約を含む契約を締結します。
この点、事業の買い手を探しているという情報が漏れると、取引先、役員・従業員、金融機関、家族に至るまで、動揺したり、憶測が流れたり、反対の動きが始まる可能性があり、買い手先候補からしても情報漏洩は最も避けたいところですから、M&A失敗に直結します。守秘義務契約は極めて重要です。

(ⅱ)事業価値評価

その後、自社の事業価値が公認会計士等によって評価されます。
この事業価値評価の前提として、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)に粉飾その他適正でない点があれば、それを修正し、実態に合ったB/S、P/L、試算表等を作成します。

回収不能売掛金をゼロ評価したり、不動産、有価証券を時価になおしたり、親族からの借入債務や、不動産への抵当権設定状況、保証債務を整理したり、建物や設備がきちんと減価償却されているか等をチェックしていきます。

この作業によって、実際の営業損益、経常損益や、資産と負債の内容・額がはっきりします。

さて、事業価値評価の方法には、DCF法、類似上場企業比較法など様々なものがあります。しかし、中小企業の事業評価は、

純資産+営業権(暖簾代)

で行われることが殆どです。

その理由は、中小企業の場合、将来のキャッシュフローやリスクが見通しにくいためDCF法で適切な評価をすることは困難です。また、似た上場会社を探して株価を参考にしようにも、大企業と中小企業では会計手法に差異がある等のため、単純に財務状況等を比較することは困難だからです。

これに対し、純資産(資産-負債)+営業権(暖簾代)であれば、買い手からみて、純資産はそのまま自分の資産になるものだし、それを使って今後利益を生み出すことを期待して事業を買うわけですから、純資産に一定程度の金額を「営業権(暖簾代)」として上乗せすることには説得力があります。

買い手からして、これならばと単純に感じることができる値段形成が、この方法なのです。
では、純資産にプラスされるこの営業権(暖簾代)は、どのように見積もるものなのでしょうか。

一般には経常利益の1~5年分程度で検討されているようです。元気があって将来も利益が続くと見込まれる会社の場合は5年、将来性は不明というなら1年、通常は2~3年分という感覚だと思います。
しかし、例えば、薄利多売のビジネスを全国展開するためとにかく店舗数を増やしたいという場合等は、経常利益の10倍以上を上乗せして買収する場合もあります。
いずれにせよ、売り手側と買い手側の交渉、思惑によって金額は決まります。その交渉の土台となる考え方が、この(実態B/Sによる)純資産+営業権です。

ちなみに営業権を買い手側は、買収後原則として5年で減価償却していくことができます。

(ⅲ)買い手側企業の選択、交渉、基本合意の締結

その後、M&Aアドバイザーによって買い手候補者が探され、売り手側経営者と綿密な相談の上、買い手候補者を絞り込みます。
そのうえでM&Aアドバイザーは、売り手側の名前を秘したまま、買い手候補者と接触します。買い手候補者のM&Aに向けての大まかな意向が確認できたら、買い手候補者とまず守秘義務契約を締結し、その上で、売り手側の名前を出して必要な情報を提供していきます。

その情報をもとに双方M&Aに向けて一応の合意ができる段階で、売り手側と買い手側で基本契約を締結します。
その時点において考えられる買収金額、M&A実行までのスケジュール、交渉の優先権、従業員や経営者の取扱、その他双方が遵守すべき事項等について、基本合意書を締結するのです。

この基本合意書には法的拘束力を持たせないのが通常です。買い手候補者による売り手企業の内容についての監査(デュー・ディリジェンス)がその後始まり、その内容によってはM&Aが進んでいくか、実現されるか分からないからです。

(ⅳ)デュー・ディリジェンス

その後、買い手候補者側によって「デュー・ディリジェンス」が行われます。
「デュー・ディリジェンス」とは、売り手側の資産、負債、損益、税務の内容、特許等の知的財産、訴訟関係、労働法や環境法関係、各種契約の内容、ビジネス環境や成長見込み等について、必要な範囲で、買い手候補者側が、公認会計士、税理士、弁護士等の専門家を使ってチェックさせるものです。

(ⅴ)最終契約、クロージング

このデュー・ディリジェンスの結果を踏まえ、最終契約内容について交渉が行われ、最終契約書が締結されます。
その後、そこで定められた実行日等に、資産や負債、契約、従業員等の移転、買収代金の支払い等が行われ、M&Aによる事業承継手続は終わります(クロージング)。

様々なM&Aの手法でどれを選択すべきか

このM&Aの手法には、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併など様々な方法があります。
しかし、事業承継としてのM&Aは、経営者がいわば創業者利益を取得してリタイアでき、相続にも備えることを目的としています。

この場合、第一に考えられる手法は、会社の株式譲渡です。株式譲渡によって支配権を第三者に移転する方法です。理由は次のとおりです。

まず合併は、対価の多様性が認められているとはいえ基本的には、買い手側会社の株式を、売り手側会社の株主が取得する手法です。買い手側会社が非上場の場合、その株式を受け取っても処分は困難です。買い手側会社が上場企業であっても、株価がその後どうなるか分かりません。

事業譲渡は、基本的には、対価が経営者ではなく売り手側の会社に払われます。そのため、経営者に払われるためには、売り手側の会社が事業譲渡による法人税を払い、さらに経営者がこれを配当等として受け取ることになるためその段階で経営者は所得税をおさめることになります。経営者の手元に来るまで二重の課税がされることになるのです。

会社分割も、基本的には、買い手側会社の株式が、売り手側の会社、又は売り手側の会社の株主に払われる手続です。したがって、合併及び事業譲渡と同様の問題があります。

他方、経営者が株式を買い手側に譲渡する株式譲渡であれば、経営者は、株式譲渡の対価の20%の税金を支払うことでM&Aの対価(株式譲渡代金)を経営者個人の資産とすることができます。
しくみもシンプルな売買で、中小企業の事業承継に最も適しています。

【最後に】

企業経営者の相続、その重要な割合を占める事業承継は、喫緊の経営課題であり、家族問題であり、かつ社会的な問題です。
どの手法を採るにしても、思案・決断・時間が必要です。右から左にできるものではありません。
よく考え、よく相談するを実行していただければと思います。

この記事の著者

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中島 成 (弁護士)中島成総合法律事務所

昭和34年8月生 東京大学法学部卒 裁判官を経て昭和63年4月弁護士。中島成総合 法律事務所を主宰。日本商工会議所・東京商工会議所「会社法制の見直しに関する検 討準備会」委員、東京商工会議所「経済法規・CSR委員会」委員等を務める。平成 16年度まで中小...

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