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【弁護士監修】自筆の遺言書を法務局で保管する新制度創設へ。20年以上の婚姻関係の場合は配偶者を優遇へ

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弁護士 古閑 孝 アドニス法律事務所

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更新日:2019年04月03日
自筆の遺言書を法務局で保管する新制度創設へ。20年以上の婚姻関係の場合は配偶者を優遇へ のアイキャッチ

少子高齢化社会の進行を受けて、政府が検討している相続分野における民法などの改正原案の全容が、2018年1月7日に明らかになりました。
 増加の一途をたどる相続トラブル解消に役立てるため、生前に自分で作成できる「自筆証書遺言書」を法務局で保管できる制度の創設や、残された配偶者が生活に窮しないよう居住権を確保できるようにすることなどが柱となっています。相続人以外でも、看護などに貢献した人が相続人に金銭を要求できるようにするなどの変更があります。

 政府は民法や家事事件手続法の改正案と遺言書の保管などに関する法案を、22日召集の通常国会に提出する方針です。成立すれば昭和55年以来の相続をめぐる法制度の抜本的な改正となるでしょう。

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改正の背景にあるもの

 昨今では生前に身辺を整理する「終活」がブームとなるなど、相続トラブルを未然に防ぐため預貯金、株式、不動産、動産といった自分の財産を誰に渡すかなどを記した遺言書を作る人が増加傾向にあります。
 それを受けて、実に40年ぶりの法改正の試みとなったわけですが、重要な改正案を以下にまとめてみました。

 ①配偶者が遺産となる建物に無償で住めるようにする、短期居住権の新設。

 ②配偶者が、遺産となる居住建物の長期居住権を選択できるようにする。

 ③婚姻期間が20年を超える夫婦間で居住用不動産が遺贈や生前贈与をされた場合、遺産分割対象から除外する。

 ④被相続人の預貯金などを、遺産分割前に生活費や葬儀費用の支払いなどに充てられるようにする。

 ⑤自筆証書遺言書の方式緩和。

 ⑥公的機関(法務局)での自筆証書遺言の保管制度を創設する。

 ⑦相続人でなくとも、被相続人の看護などに大きな貢献をした人が、相続人に金銭を請求できるようにする。

 従来にはなかった大きな変更点は以上の7つです。残された配偶者に対する配慮と、法定相続人以外の寄与者に対する配慮、それと遺言書の作成と保管を容易にする取り決めがメインとなっています。
 今回は、タイトルにもあるように自筆証書遺言に関してメインに取り上げていきますが、全体的な変更に関してもざっくりと触れて行きましょう。

配偶者に対する配慮

 日本人の平均寿命はおおよそ男性が81歳、女性が87歳となっており、妻よりも夫が先に亡くなるケースが多いといえます。
 そのような場合に、従来では、他の相続人の取り分を捻出するため、残された配偶者が家や土地を手放すというケースが非常に多くありました。今回の改正案は、それを解消するような内容になっています。
 とりあえず遺産分割が終わるまでの間は住んでいられるようにするのが①の短期居住権、最期まで、あるいは心身の整理がつくまでの一定期間は住んでいられるようにするのが②の長期居住権となります。
 これにより、残された配偶者が準備も整わないうちに家から追い出されることを防ぎ、住み慣れた我が家に住み続けることを選択できるようになります。

 また、従来ですと被相続人から遺贈や生前贈与を受けた場合には「特別受益」といって、その分も遺産に含めて考えるという制度になっていました。遺産分割に不公平が出ないよう、遺産の金額に贈与の金額をプラスして、その総額を相続人で分割するという考え方です。
 今回の改正案では、結婚生活が20年以上の夫婦に限られますが、贈与された居住物件に関しては遺産分割の対象外となります。
 これにより、残された配偶者は住み慣れた家を確保したうえで、改めて法定分の遺産分割を受けられるように変わります。また、現行では配偶者の法定相続分は遺産の1/2となっていますが、これを2/3へ引き上げる見直しも検討されています。

相続人以外に対する配慮

 当たり前なのですが、家族などの法定相続人でなければ、遺産を相続することはありません。たとえそれが被相続人が生前にとてもお世話になった、家族同然の相手であったとしてもです。
 従来ですと、そのような相手に財産を渡すためには、被相続人が生前贈与を行うか、事前に遺言書を用意して遺贈する旨を記しておかなければなりませんでした。
 しかし、それでは想定外に急死した場合に対応できません。
 そこで、今回の改正案では看護などに貢献した側から、相続人に対して金銭を要求できるように変更されています。
 今のところ、看護などに従事した人が相続人に対して金銭の請求が可能となるのは、長男の妻が義父母の看護や介護をしたケースなどが想定されています。
 従来であれば遺産分割協議で「面倒を見たんだから見返りがあってもいいはず」と主張して、それを相続人全員が同意しなければなりませんでしたが、立場や道徳観念上強く主張することが難しいケースもあります。
 この改正案では、その部分を法的にバックアップするような形を想定されています。どこまでを請求の対象とするかは、今後さらに与党内で調整される見通しです。

銀行の預貯金に対する扱い

 従来ですと、銀行の預貯金などは遺産分割の対象として、被相続人が亡くなるといったん凍結され、相続人全員の合意がない限りは引き出せないものとなっていました。そして、いったん凍結された口座を復帰させるには、時間と複雑な手続きが必要となります。
 しかし、その結果葬儀費用どころか、生活費を引き出すことすらできなくなってしまうケースがあり、問題視されていました。
 今回の改正案では、預貯金が遺産分割の対象であることは変わりませんが、分割する前に葬儀費用や生活費として必要な分を引き出せるようになります。
 これにより、必要経費を抜いて、残った分を遺産として分割することができるようになるのです。これは配偶者のみに限らず、遺族が生活に窮しないための配慮となっています。

遺言書に関する変更点

 さて、いよいよメインコンテンツですね。
 遺言書には種類が3つあり、それぞれ自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言といいます。このうちもっとも一般的な、いわゆる遺言書と言ってイメージするもののことを自筆証書遺言といいます。
 公正証書遺言というのは、公証役場で公証人と協力して作成する遺言書の事で、公証役場で保管してもらえます。
 秘密証書遺言とは、事前に用意した遺言書を公証役場に持ち込んで、遺言書を作成したという記録を保管してもらう遺言書です。公証役場で保管してくれるのはあくまで記録だけであり、遺言書そのものは自力で保管することになります。

 今回の改正案の対象となったのは、このうちの自筆証書遺言です。
 この自筆証書遺言は、偽造を防ぐため様々なルールが民法で定められています。以下にそのルールを簡潔にまとめておきます。

 ①全文直筆であること。
 ②作成した日付を明記すること。
 ③署名、押印をすること。
 ④個人名義であること。
 ⑤分割する財産について具体的に記述してあること。

 以上のような条件を満たしたものが自筆証書遺言となります。それ以外には特別な届け出や費用もかからず、内容も書き直しも自由なので、遺言書の中では最も手軽に作成できるものとなっています。
 その際、分割する財産の一覧である財産目録を添付することが多いのですが、これも同じく自筆する必要がありました。
 今回の改正案では、パソコンなどで作成した自筆以外の財産目録の添付も可能となります。
 財産目録とは土地や建物から借金に至るまで、被相続人のすべての財産を一覧にしたものの事です。遺言書の内容に具体的な分割を書かねばならない以上、ほとんど作成は必須といえます。
 ですが財産目録の作成というのはとても煩雑で、時間のかかるものなのですが、パソコンなどで作成できるようになったことにより多少は作業の時間が緩和されることになります。

 また従来では、自筆証書遺言書は自分で保管するのが一般的でした。金銭的に余裕があれば弁護士や行政書士に預ける、金融機関の貸金庫に保管するというケースもあります。
 ですが、自力保管ですと発見されないケースも多く、弁護士に預けるような場合でも遺言執行人に指定されていなければ見届けることができないなど、トラブルも多くありました。
 今回の改正案では、公的機関である法務局で自筆証書遺言を保管できるようになります。法務局には死亡届を提出する必要があるので、そこと連動すれば遺言書の存在を相続人全員に知らせることができるようになるでしょう。
 これにより、遺言書の紛失を防ぐと同時に、意図的な隠ぺいや偽造を防ぐ効果も期待できます。遺言書に関する変更点としてはこれが一番大きなものとなっています。
 また、現行の相続では不動産の登記義務がないため、遺産分割協議で所有者の決まらなかった不動産が誰のものだかわからないまま放置されるという事態がままありました。遺言書の内容がきちんと執行されるようになれば、結果として所有者不明の土地や空き家問題の解消につなるでしょう。

 ちなみに、この改正が成立すれば秘密証書遺言のメリットがほとんどなくなってしまうように感じられるかもしれませんが、そうでもありません。
 秘密証書遺言の場合、直筆の署名と押印があれば、遺言書の内容そのものはパソコンで作成したり、代筆したりすることが認められているからです。身体的な事情などで自筆が難しい場合、大変メリットのあるものになっています。
 公正証書遺言や秘密証書遺言、その他遺言書に関する詳しいことは法的に有効な遺言書の書き方などで検索してみていただければ、参考になるかと思います。

法改正の注意点

 今回の改正案は相続に関する民法の改正案なのですが、同じ民法の改正に平成29年5月26日に成立した債権に関する民法改正があります。こちらの改正はすでに成立していますが、施工時期は平成32年の4月となっています。
 ですので、今回の改正案も成立したからといってすぐに施工されるものではないと考えられます。 民法の一部を改正する法律附則第一条に、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施工する、とありますので、今回の改正がすぐに成立したとしても、実際に施行されるのはおそらく期限ぎりぎりの3年後くらいになるでしょう。

 それまでは法改正の準備期間として、こちらも対処しなければなりません。

 すでに遺言書を作成済みという場合にも、改正後の法律に対応できているかどうか見直しが必要でしょう。遺産分割に関する部分が大きく変わることになりますので、遺言書としては適っていても、内容に不備があるというケースが予測されます。
 逆に、3年という期間が予測できますので、それまでに万が一のことがあった場合にも対処できるようにしておかなければなりません。改正されたからといって今ある遺言書を破棄してしまうのは早計です。
 預金に関しては混乱が予測されますので、あらかじめ一人の方に管理を任せ、葬儀費用などを捻出してから分割するよう指示を出すなどした方がよいかもしれません。

 改良であれ改悪であれ、改変時期には混乱がつきものです。弁護士など法律の専門家と相談して、対応策を用意しておくのもよいでしょう。
 移行期間に発生した相続に対してはなんらかの措置が行われることも十分に考えられますので、遺産分割が終了していたとしても気に留めておいた方がよいかもしれません。

まとめ

 以上が、相続分野における民法や家事事件手続法の改正案の概要になります。もしこれが成立すれば、特別受益に関する部分などは特に大きく変わることになります。
 そうすると相続税に関しても齟齬が出てくるでしょうから、税法も変えることになるかもしれません。

 預貯金に関する取り決めが変われば、銀行のシステムを見直す必要も出てくるでしょう。3年という期間も、銀行のシステムを変更するとなると短い期間かもしれません。
 このように、今回の改正案は複数のシステムにまたがったものとなっていますので、どのような結果になるか非常に楽しみな改正案といえるでしょう。

 遺言書に関して言えば、作成のハードルが若干下がったことと、意外とやっかいだった遺言書の保管方法に変更が入ることになります。結果的に偽造や隠ぺいを防ぎ、遺言書の内容が正しく執行されることも期待できるでしょう。

 もちろん、法務局に預ける際の手続きの煩雑さや費用によって結果は変わるでしょうが、少なくとも現行よりはましになると期待できるのではないでしょうか。
 当たり前ですが、遺言書は生きている間に用意しなければいけません。その内容が間違っていたでは遺族も困ってしまいますから、十分に注意したいですね。

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