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【弁護士監修】「相続放棄」と「相続分の放棄」の違い

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弁護士 古閑 孝 アドニス法律事務所

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更新日:2023年05月02日
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「相続放棄」と「相続分の放棄」の違いについて

父親が死亡し,相続人は母親Aと長男B(相談者)・長女C・二男Dの合計4人です。相談者は生前父親から自宅購入時に贈与を受けているので、父親(被相続人)の遺産である「不動産」・「預貯金」・「株券」を相続する意思はありません(マイナスの財産となる相続債権はありません)。
このような場合、私(相談者である長男B)はどのような手続きをとることができるのでしょうかという相談内容でした。

→方法は、「相続放棄」あるいは「相続分の放棄」があります。

相続放棄について

相続放棄は、相続人が相続の開始によって不確定的に生じた相続の効果を確定的に拒否し、始めから相続人でなかったという効果を生じさせます(民法939条)。したがって、相続放棄は代襲相続の原因とはなりません。
また、相続放棄は、家庭裁判所(被相続人の最終住民票に記載されている住所地の管轄の家庭裁判所)に対して手続(申述)をします。

相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内にしなければなりません。ただし、相続財産の調査が完了せず、相続の証人・放棄が出来ないような事情がある場合には、利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所がこれを伸長することができます。

法定相続による共同相続人の相続分と相続放棄を行った人がいた場合の共同相続人の相続分について

今回の質問の例で考えると、相続人全員が通常どおり相続(法定相続)をした場合は、母親Aの相続分は2分の1、長男B・長女C・二男Dが各6分の1となります。

相談者である長男Bが相続放棄を行った場合、その効力は「初めから相続人とならなかったものとみなす」ことから、相続人は、母親A・長女C・二男Dの3人だけであったことになります。その結果、母親Aの相続分は2分の1で変わりありませんが、長女B・二男Dの相続分は各4分の1に増えます。

相続分の放棄

共同相続人は、相続開始後遺産分割までの間に自分の相続分を他の相続人又は第三者に譲渡することができます。但し、第三者に譲渡した場合は、他の相続人は取戻権を有します。

これと同様に、共同相続人は、相続開始後遺産分割までの間に自分の相続分を放棄することもできます。相続の放棄ができる期間(原則3カ月)を超えると相続放棄ができないので、相続分の放棄によらざるを得ません。

相続分の放棄は、相続放棄と違って法律上の方式はなく、相続人中に自分の相続分以上の特別受益(遺贈又は生前贈与)を受けた場合などに、特別受益者が自分には相続分がないということを証明する書面として、「相続分のないことの証明書」又は「特別受益証明書」を作成し相続登記をおこなうことがあります。

これらの証明書には決まった書式はありませんが、①被相続人を住所氏名等によって特定した上で、自らには相続する相続分が無いことを証明するという内容が記載されていること、②押印は実印で行い印鑑証明書を添付することで、相続登記の添付書類となります。

相続分のないことの証明

よって、法定相続人が2人の場合は、そのうちの1人が特別受益を受けている時は、その方が作成した「相続分のないことの証明書」を添付すれば、ほかに遺産分割協議書は不要となります。

また、今回の質問のように、法定相続人が4人いる場合、特別受益者からは「相続分のないことの証明書(特別受益証明書)」を作成してもらい、その他の相続人により遺産分割協議をおこなうことが可能となります。

特別受益証明書の問題点

相続分のないことの証明書(特別受益証明書)は、「相続すべき相続分が無いこと」が書かれていれば、生前贈与などを受けた財産の詳細を書く必要はありません。

そのため、実際の相続財産と比べると特別受益に相当する生前贈与などを受けていないにもかかわらず、遺産分割協議をおこなう手間を避けるために、「相続分のないことの証明書」が作成されてしまうことがあります。

特に、ある相続人を遺産分割協議書の当事者から除外することを目的として「相続分のないことの証明書(特別受益証明書)」への署名押印を求められた場合、自らが特別受益者であることを認めるときを除いては、安易に応じるべきではありません。

よって、現実に特別受益者であるとしても「相続分のないことの証明書(特別受益証明書)」を作成するのでは無く、他の相続人と一緒に遺産分割協議書に署名押印すれば済むので、あえて特別受益者であることを証明するための書類を作成する必要がない場合もありますので、自分で勝手に判断せずに、専門家に事情を説明して最善な方法を選択することをお勧めします。

相続分の放棄を行った人がいた場合の共同相続人の相続分について

今回の質問の例で考えると、前述のとおり、相続人全員が通常どおり相続(法定相続)をした場合は、母親Aの相続分は2分の1、長男B・長女C・二男Dが各6分の1となります。
長男Bが「相続分のないことの証明書(特別受益証明書)」を作成し、相続分の放棄をおこなった場合、放棄した者の相続分は残された相続人の相続分率に応じて再配分することになります。

よって、母親A:長女C:二男Dの相続分の比は、「3(3/6):1(1/6):1(1/6)」であるため長男Bの相続分6分の1を再配分すると、母親Aは5分の3、長女Cと二男Dは各5分の1づつとなり、「相続放棄」と「相続分の放棄」では、共同相続人に与える相続分の影響は異なります。

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