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40年ぶりに改定「相続法」とは、何が変わったのか

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更新日:2019年05月13日
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平成30年(2018年)7月13日に「相続法」が改正、公布されました。今回の改正は、昭和55年(1980年)以来、実に40年ぶりの大幅な見直しが行われました。その要因は高齢化社会の進展や、現在の親子関係や夫婦関係に対する国民意識の変化、と言われています。知らないと損をしてしまうポイントもたくさんあります。
相続法がどのように新しくなったのか、特に重要なポイントをまとめました。

わからないことは弁護士に相談を

1. 相続法とは

まず「相続法」とは、民法の中で、相続に関わる部分のことを指しています。「相続法」という法律が、存在するわけではありません。
民法882条から1044条までの部分が「相続法」と呼ばれ、そこで相続の基本的なルールを定めています。
具体的には、誰が相続人となるのか、その順位はどうなのかという相続人に関すること。また何が遺産となるのか、という相続遺産に関すること。遺言とはどのようなもので、どのように作成するか、ということ。さらに被相続人の権利だけでなく義務も、どのように相続人間で分配し、受け継がれるのかということなどです。相続行為は全てこの「相続法」にかなっていなければなりません。

2. 今回の改正のポイント

今回の改正は多岐にわたりますが、特に重要なものを以下のポイントにまとめてご説明します。
◆ポイント1.配偶者居住権の新設
◆ポイント2.自筆証書遺言に関する3つの変更
◆ポイント3.結婚期間20年以上の夫婦間での住居の贈与が特別受益の対象から外れる
◆ポイント4.遺産分割協議前に被相続人の預貯金債権の一部払戻制度が創設
◆ポイント5.被相続人の介護や看病に貢献した親族が相続人へ金銭請求が可能に

ポイント1.  配偶者居住権の新設

配偶者居住権とは、配偶者が被相続人と一緒に暮らしていた建物を対象に、無償でそのまま生涯または一定期間、住み続けることができる法定の権利として新設されました。これは遺産分割の選択肢の一つとして、または遺言書によって配偶者に配偶者居住権を取得することを可能にしたものです。
現在でも、配偶者がその建物を相続すれば、住み続けることが可能です。けれども、その建物分が相続財産として計算されるため、他の財産の受け取り分が少なくなります。その結果、家はあっても、生活資金にゆとりがない、という事態を招いていました。
今回の改正では被相続人と配偶者が暮らしていた家の相続権を「配偶者居住権」と「負担付所有権」に分けたことが大きなポイントです。


被相続人:夫(=父)
相続人:妻(75歳、終身その家に住みたい)、息子(50歳)
遺産:自宅2,000万円(木造、築40年土地付き)と預貯金3,000万円=合計5,000万円
【改正前】

  息子
自宅 2,000万円 0円
預貯金 500万円 2,500万円
合計 2,500万円 2,500万円
  家を相続できたけれど、生活費にゆとりがない。 家はもらえなかったけれど、預貯金をもらえた。

【改正後】権利を相続する部分と、現物を相続する部分にわかれる

  息子
自宅 配偶者居住権1,000万円 負担付所有権 1,000万円
預貯金 1,500万円 1,500万円
合計 2,500万円 2,500万円
  家に住み続けることができ、生活費にもゆとりがある。 家の所有権をもらって、預貯金額の取り分が減った。

配偶者居住権を取得した場合には、その財産的価値相当額を相続したものとして扱われます。なお、配偶者の「配偶者居住権」は、完全な所有権ではありません。そのため、勝手に家を売ったり、人に貸したりすることはできません。その分評価額が低く抑えられ、他の財産の取り分が多くなることが期待されます。

ポイント2.自筆証書遺言に関する3つの改正

相続手続き
1.遺言書の一部でパソコンによる作成が可能になる
これまで自筆証書遺言は、いつでも気軽に作れるメリットがあるものの、財産目録も含めて、全て手書きでなければなりませんでした。今回の改正により、財産目録部分に関してはパソコンで作成が可能になりました。これによって、自筆証書遺言の作成が件数が伸びることが期待されています。

2.法務局にあずかってもらえる
自筆証書遺言は自宅や貸金庫、弁護士に保管してもらう必要がありました。特に自宅で保管している場合は、いざという時に探し出せなかったり、書き終えた後に、他の人に改ざんされるというリスクがありました。改正後には、法務局で自筆証書遺言を預かってもらえますので、紛失や改ざんというリスクを回避することが期待されます。

3.裁判所の検認が必要なくなる
現在は遺言書を発見しても、すぐには開封できず、裁判所の検認が必要です。改正後はこれが省かれるので、早期に遺言の実行が可能になることが期待されます。

ポイント3.結婚期間20年以上の夫婦間での住居の贈与が特別受益から外れる

住居の贈与
特別受益とは生前贈与(=被相続人の生前に、相続人の1人と贈与契約をすること)、遺贈(=いわゆる遺産相続)、死因贈与(=被相続者の生前に、被相続者の死亡により受贈者への贈与が行われる契約がされているもの)の3つを指します。
この特別受益には、遺産分割の計算の際に「持ち戻し制度」というものが適用されます。
これは特別受益分も遺産に含まれるとして合算して「みなし相続財産」を算出する方法です。その特別受益分を含んだ「みなし相続財産」を法定相続分に従って分割します。最後に特別受益者は、法定相続分から特別受益分を差し引きます。

特別受益があった場合の遺産分割の計算例は以下の通りです。
被相続人:夫(父)
相続人:妻(結婚期間30年)、息子2人
遺産:預貯金債権3,000万円、賃貸物件4,000万円=7,000万円
特別受益:妻に住居5,000万円相当を生前贈与
【表1】

    息子1 息子2
特別受益 住居 5,000万円 5,000万円 0円 0円
遺産 預貯金債権他 7000万円      
みなし相続財産 特別受益(住居)+遺産(預貯金債権他)
=1.2億円
     
法定相続分   1/2 1/4 1/4
相続財産   6,000万円 3,000万円 3,000万円
実体相続財産 相続財産―特別受益 1,000万円 3,000万円 3,000万円

これがもし、特別受益がなかった、として計算された場合には
【表2】

    息子1 息子2
遺産 預貯金債権他 7000万円      
法定相続分   1/2 1/4 1/4
相続財産   3,500万円 1,750万円 1,750万円

となり、妻は5,000万円相当の家を受け取り、さらに3,500万円の預貯金債権を受け取ることになります。

現在は結婚期間20年以上の夫婦間で住居を生前贈与または遺贈をした場合でも、特別受益とみなされて、遺産分割の計算対象となっています。表1のとおりです。妻は住居を手にすることができますが、それ以外の遺産は少なくなります。
それが改正後には、住居の生前贈与または遺贈は特別受益と評価されずに、遺産分割の計算対象から外れます。表2のとおりですね。これによって、結婚20年以上の配偶者は、住居以外の財産、預貯金や有価証券などの取り分が増えることが期待されます。

ポイント4.遺産分割協議前に被相続人の預貯金債権の一部払戻制度が創設

預貯金債権
被相続人の全ての遺産は、相続が開始した時点で相続人全員が共有している財産とみなされます。そこで金融機関は、原則的に遺産分割協議の前には、一部の相続人が勝手に被相続人の預金口座から払い戻しをすることや、名義変更手続きをすることは受け付けていません。しかし、遺産分割協議が難航するなど、時間がかかった場合には、その間の生活費や葬儀費用、債務弁済費用などがかかります。
こうした資金需要にこたえるために、改正によって被相続人の預貯金債権の一部払い戻し制度が創設されました。施行後には、家庭裁判所の判断を仰がずに、被相続人名義の預貯金額を150万円まで引き出せることができるようになります。
これによって、相続人のうち一人が、分割協議が終了するまで費用を建て替えるといった金銭負担や、複数人で建て替えた後に清算する、といった手間が省けることが期待されます。

ポイント5.被相続人の介護や看病に貢献した親族が相続人に金銭請求が可能に

現在の民法では、相続人のみが遺産を受け取れます。そのため例えば子どもの配偶者などが、主に被相続人の介護や看病をした場合でも、遺言に遺贈などの記載がない場合には、その貢献に見合う分配は受けられません。これは不公平ではないか、という指摘がされていました。
今回の改正では、こうした不公平を解消するために、特に遺言に書かれていない場合でも、相続人ではない親族も被相続人の介護や看病に貢献した場合は、相続人に対し、金銭の請求をすることができることになりました。
ただしこれは親族に限られ、介護士、看護師などの第三者には認められていません。

困ったり、わからないことは弁護士に相談しましょう

3. それぞれの法律の施行日

今回の民法(相続関係)改正法の施行期日は、
(1) 自筆証書遺言の方式を緩和する方策 =2019年1月13日
(2)原則的な施行期日 =2019年7月 1日
(1)と(3)以外の規定
(3)配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等= 2020年4月 1日
と段階的に施行されていきます。

4. わからないことは弁護士へ相談を

今回の「相続法」の改正は、実に40年ぶりという大幅な改正です。そのため、例えば配偶者居住権等の評価額の算定方法などについては、まだ細かい点が明らかにされていません。さらに配偶者居住権は、それを利用したほうが良いのか、それとも所有権にした方がいいのかは、残された配偶者の年齢や建物の種類(マンションか土地付き1戸建てが)、また構造(コンクリートか、木造かなど)、そして他の相続人との関係によって異なります。これまでの知識では対応しきれない部分が多くなりますので、わからない点があったら、まず弁護士へ相談しましょう。

5. まとめ

約40年ぶりとなる「相続法」の大幅な改正の理由には、社会の変化があります。高齢化は進む一方ですし、親子や兄弟などの家族関係に対する国民の意識も緩やかに変化しています。今回の改正は、これら国民意識を汲み上げて、より現状にあった法制度とするものです。正しく理解をして、賢く利用したいですね。

この記事の著者

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相続相談弁護士ガイド 編集部

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