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【弁護士監修】日本居住の外国人が亡くなった場合の相続方法や財産の把握

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弁護士 酒井 ひとみ 小島国際法律事務所

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更新日:2019年03月08日
日本居住の外国人が亡くなった場合の相続方法や財産の把握のアイキャッチ

相続に適用される法律は、日本の民法?

 日本国内で、日本人が亡くなり、相続人もすべて日本人である場合で、かつ相続財産も日本国内にしかない場合は、純粋な国内相続事件といえます。したがって、当該相続については、日本法に基づいて処理すればよいことになります。

 一方、被相続人・相続人のいずれかに外国人が含まれている、相続財産が外国にある、当事者が外国に居住している等、相続の要素の中に外国を含む場合は、国際相続事件となります。国際相続事件においては、そもそもいずれの国の法律を適用して処理をするべきかを決める必要があります。外国人が日本で亡くなったとしても、その方に関する相続に関して、当然に日本国法が適用されるわけではないことに注意が必要です。「日本国法で処理されるわけではない」ーこれが国際相続事件を複雑にする大きな理由の1つです。

 各事案に適用する法律ーこれを専門用語で「準拠法(じゅんきょほう)」といいますが、日本では、この準拠法について定めた法律として「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」といいます)があります。通則法第36条では、「相続は、被相続人の本国法による」と規定してあり、本国法とは、簡単にいうと国籍のある国の法律のことをいいます。したがって、日本に居住する外国人が亡くなった場合、当該外国人の相続に関する問題は、原則として、その外国人の本国法=国籍を有する外国法に従って処理されるということになります。

 なお、被相続人がアメリカのように州によって異なる法律の国籍を有する場合、二重国籍の場合、無国籍の場合、被相続人の本国が日本の未承認国である場合等は、通則法に従い、さらなる検討が必要です。

相続財産に日本の不動産が含まれている場合の留意点

 前述の通り、通則法では、「相続は、被相続人の本国法による」とされているので、亡くなられた方が外国人である場合、当該相続については、日本国法ではなく、被相続人の本国法である外国法が適用されることが原則です。

 しかしながら、外国法の中には、アメリカの各州法のように、「不動産の相続については、不動産の所在地法による」と定めている場合があります。日本の通則法第41条では、「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による」と反致(はんち)を規定しています。したがって、仮に被相続人がアメリカ人で、かつ日本に不動産を所有している場合は、原則として相続の問題は当該アメリカ人の本国法、実際は、密接関係地といえる州の法律に従って処理されることとなり(アメリカのように州によって法律が異なる場所的不統一法国で、かつ場所的不統一法国で準拠法を定める共通のルールがない場合は、本人と最も密接な関係のある州の法律を「本国法」とみなします(通則法第38条3項))。その州法が、「不動産の相続については、不動産の所在地法による」と定めている場合、日本にある不動産の相続については、日本国法が適用される可能性があることに留意が必要です。

 したがって、日本に居住する外国人の相続が問題となった場合は、当該外国人の本国法の相続ルールのみならず、相続に関する準拠法(日本の通則法に該当する法律)についても検討した上で、適用される法律を決めることも必要となります。このように、適用する法律を決めるまでにもいくつかの検討を要することも、国際相続事件を複雑にしているといえます。

相続財産の把握方法

(1) 日本の財産の把握

 相続財産の把握の方法も外国人ならではの特殊な問題があります。

 最近は、犯罪による収益の移転防止に関する法律等により、本人確認も厳しく、在留カードと同一名義での口座開設しか認めない金融機関も多いですが、かつては、外国人の口座名義名については、大変緩かったように思います。過去の経験でも通称名・略称名等で、1つの金融機関で複数の口座を開設していた事案等がありました。したがって、特に高齢者で日本の居住歴の長い方の金融口座に関する残高証明等の取り寄せの場合には、考えられる複数名義を金融機関に示す等して、取りこぼし財産のないよう心掛けることも肝要です。

(2) 外国の財産の把握

 日本に拠点をおくとはいえ、外国人は日本国以外-主に本国に財産を有していることが多いです。また、リスク分散の思想からか第三国に財産を置く外国人も少なくありません。国外の金融資産については、かつては毎月account statementが郵送され、本人が亡くなられても郵送され続けるstatementから財産の把握が可能であったこともありました。しかしながら、最近はネット上の口座のみでの管理も増え、ユーザー名、パスコードを知っている本人以外は、アカウント情報にアクセスできない場合も多いです。外国の財産は、所在国によっては、死亡と同時に、プロベートという裁判所の手続が開始されるまで凍結されて裁判所から任命される遺産管理人以外、一切の情報開示も拒否する場合もあり、日本の財産と比較してもその財産把握は困難であるといえます。

 後述のように、日本居住の外国人が死亡した場合は、日本の財産のみならず全世界財産が日本の相続税の対象となります。日本の相続税の納税期限は、10か月と短いです。したがって、日本の相続税申告に備えるためにも、円滑な相続手続のためにも、事前に本人に外国の財産の内容・規模等について確認しておくことが必要といえます。

 なお、外国の財産の相続手続も財産所在地国ごとにやはり特殊な問題が発生します。したがって、外国に財産がある場合は、その財産所在地ごとに生前相続対策(エステート・プランニング)をしておくことも円滑な相続のためには必要といえます。

相続税

 日本に居住する外国人が亡くなられた場合、日本の財産のみならず海外の財産も日本の相続税の対象となります。海外の財産が多く、かつ日本国内に相続税の原資となるような財産が見当たらない場合は、どのようにして相続税の原資を確保するべきか等が実務的に問題となります。

 日本と海外の両方で税金がかかる(これを「二重課税」といいます)こととなった場合でも、外国税額控除の制度により、海外で納付した税金を考慮し、その全部又は一部について日本の相続税から控除することも可能です。

終わりに

 日本で居住した外国人が日本で亡くなられたとしても、必ずしもその相続の処理は、日本国法にしたがって進められるものではないという点に留意が必要です。外国法が適用される可能性があるということです。また、相続財産が外国にもある可能性も高く、まずは相続税の申告の準備のために、外国にある相続財産も10か月という期間内に把握する必要もあります。被相続人が外国人ですと戸籍もないことから、相続関係を証明する書類の手配等も、通常の国内相続とは違った手続になります。

 相続を円滑にすすめるためのエステート・プランニングの重要性は国内相続事件でも言われています。しかしながら、より手続や法的問題点が複雑といえる国際相続事件では、エステート・プランニングを通じて相続財産を把握し、相続税の準備をしたり、財産の所在地ごとの準備を行うことがより重要といえます。

 日本に居住された外国人が亡くなられたケースといっても、外国人ご夫婦の場合、国際結婚されているご夫婦で外国人のご主人が亡くなられ日本人の奥様がのこされる場合、相続人がすべて日本に居住している場合、相続人が外国にもいる場合と状況は様々です。のこされた相続人にストレスをかけない円滑な相続とするためには、事前に専門家に相談する等して、それぞれの事情に応じたエステート・プランニングを行うことをお勧めします。

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酒井 ひとみ (弁護士)小島国際法律事務所

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